セクハラへの行為差止め要求や慰謝料請求
セクハラとは?
セクハラとは、正式名称を「セクシャルハラスメント」といい、日本語に訳すと「性的嫌がらせ」であるということは、すでに一般にもかなり周知されています。
セクハラとは、
「相手方の意に反した不快な性的言動、及び、それに対する反応によって仕事をする上で一定の不利益を与えられたり、それを繰り返すことによって就業環境を著しく悪化させること。」と定義されており、大きく分けると、以下の2種類に分類されます。
対価型セクハラ |
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職場における地位や立場を利用して性的な言動や行為を行う(または強要する)こと |
・昇進や昇級を条件とする性行為の強要 ・拒否した場合に減俸や降格、その他の不利益を与える |
環境型セクハラ |
職場で働く環境を害するような性的嫌がらせのこと |
・職場における、ヌードカレンダーなどの性的な掲示物の掲示。 ・容姿や下着などの性的な冗談やわいせつな会話、性経験などの執拗な質問。 ・社員旅行などにおける、浴衣や水着、または裸踊りやお酌などの強要。 ・「異性関係が乱れてる」「女(男)遊びし過ぎ」などの侮辱や非難 |
セクハラは、上司や取引先などの優位な立場や特別な権限を有する側から行われることが多く、特に男性から女性に対して行われるケースが大半です。 ただし、同性同士(男性から男性へ。または女性から女性へ)も多いですし、女性から男性へ行われる場合もあります。
男女雇用機会均等法により、企業には、セクハラ防止のために必要な措置を講じなければならない義務が課せられています。
男女雇用機会均等法 第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置) |
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事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
厚生労働省から出された指針によって、業種や規模を問わずすべての事業主に次の3項目が義務付けられています。
厚生労働省(セクシュアルハラスメントのない職場にするために事業主が雇用管理上配慮すべき事項) |
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1.職場におけるセクシュアルハラスメントを許さないという事業主の方針の明確化と周知・啓発 |
2.相談・苦情への対応のための窓口の明確化と、相談・苦情への適切かつ柔軟な対応 |
3.職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた場合の、迅速かつ適切な対応 |
セクハラによって精神疾患を発症したり、休職または退職を余儀なくされた場合、労災の認定を申請して治療費や休業給付などを受けられる可能性があります。
企業は、民法上、従業員が第三者に損害を与えた場合の「使用者責任」を負います。
雇用機会均等法によっても「安全配慮義務」「職場環境配慮義務」を負います。
そのため、企業の営業所で発生したセクハラ被害について、雇用主への損害賠償請求を行うことが出来ます。
民法 第709条(不法行為による損害賠償) |
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事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
民法 第710条(財産以外の損害の賠償) |
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
民法 第715条(使用者等の責任) |
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 |
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。 |
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。 |
セクハラの内容が強制わいせつ罪や名誉棄損罪などに該当する場合には、刑事告訴するなどして処罰を求められる可能性もあります。
刑法 第174条(公然わいせつ) |
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公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 |
刑法 第176条(強制わいせつ) |
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。 |
刑法 第177条(強制性交等) |
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。 |
刑法 第230条(名誉毀損) |
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。 |
刑法 第231条(侮辱) |
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。 |
セクハラに関する裁判例
さいたま地方裁判所 平成19年12月21日判決 |
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同僚社員である被告からセクハラ行為を受けた原告が,セクハラ行為によって精神的苦痛を被り,そのショックのため会社を退職せざるを得なくなったとして,被告に対し不法行為に基づき慰謝料,逸失利益,治療費等の損害賠償を請求した事案につき,セクハラ行為自体は短時間でそれほど激しいものではなかったとした上で,セクハラ行為に至る経緯等に照らし,一時的にしろ看過できない精神的衝撃を与えることは予見可能であったとして,ショックによる精神的不調等に対する治療費の一部を認めた上,結果の重大性等にかんがみ200万円の慰謝料を認めた。 |
京都地方裁判所 平成19年04月26日判決 |
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被告が,被告が代表者を務める会社に勤務していた原告に対し,その就職直後から退職に至るまで1年2か月にわたって継続的に職務として性交渉を要求した行為について,セクハラとして不法行為に該当するとし、セクハラの慰謝料300万円と、原告は上記セクハラにより退職し,その後の就労が十分にできなかったとして,退職後3か月間については月収全額の,その後9か月については月収の3分の1の金額(合計273万円)について,逸失利益と認めた |
パワハラへの行為差止め要求や慰謝料請求
パワハラとは?
パワハラについては、法令上の正確な定義は存在しないため、不明瞭な部分もあります。 ただし、一般的には、「職場内での地位や権限を利用して、本来の業務範囲を超え、継続的に、相手の人格と尊厳を侵害する言動を行い、就労環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること」などを指します。
これまでの裁判例や個別労働関係紛争処理事案から、大きく分けて以下の6類型があります。
1)身体的な攻撃 |
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暴行や傷害 |
2)精神的な攻撃 |
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 |
3)人間関係からの切り離し |
隔離・仲間外し・無視 |
4)過大な要求 |
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 |
5)過小な要求 |
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと |
6)個の侵害 |
私的なことに過度に立ち入ること |
パワハラへの対処方法
パワハラによって精神疾患を発症したり、休職または退職を余儀なくされた場合、労災の認定を申請して治療費や休業給付などを受けられる可能性があります。
また、事案の内容によっては、治療費や休業損害、慰謝料、逸失利益などの請求をすることが出来ます。
傷害の場合、裁判においては、治療費や休業損害については、交通事故の際の「入通院慰謝料算定表」に準じた計算となり、慰謝料に関しては、交通事故の基準よりも増額(1割~2割増)となる傾向にあります。 傷害が複数回にわたって反復継続していた場合や、その態様が悪質性の高いものである場合だと、3割~3割増の賠償を認定するケースもあります。
さらに、暴行罪や傷害罪などに該当する場合には、刑事処罰を求められる可能性もあります。
刑法 第204条(傷害) |
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人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 |
刑法 第208条(暴行) |
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 |